はじめに:開発の新しい「相棒」候補、Codex CLIとは?

最近、AIによる開発支援は目覚ましい進化を遂げており、多くのエンジニアが日常的にその恩恵を受けるようになりました。私も普段の開発では、Google製の「Gemini Code Assist」をVSCodeの拡張機能として利用しています。
これまでは従量課金制でコストを気にする必要がありましたが、そんな中、OpenAIから「Codex CLI」がChatGPT Plusプランのユーザー向けに追加費用なしで利用可能になったというニュースが飛び込んできました。
- Codex CLIとは
-
ターミナル上でAIと対話しながら、コードの生成、修正、レビュー、テスト作成などを行えるコマンドラインツールです。
新しいツールにはつい心が躍るもの。そこで本記事では、私が普段使っているGemini Code Assistの開発環境はそのままに、このCodex CLIを後から導入し、どれほどの実力を持っているのかを試した体験をレポートします。

なぜCodex CLIを試そうと思ったのか(動機と背景)

新しいツールを試すなら、クリーンな環境でゼロから始めるのが定石かもしれません。しかし、今回私がCodex CLIに期待したのは、「今、まさに開発しているプロジェクト」での即戦力です。
この考えに至った思考プロセスは、以下の通りです。
- きっかけ
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サブスクリプションプランで使えるようになったことで、APIコストを気にせず、気軽に試せるようになった。
- 実践欲求
-
せっかくなら、現在進行中のアプリケーション開発ですぐにでも使ってみたい。
- 現実的な懸念
-
とはいえ、開発途中のプロジェクトをAIに丸投げして作り直してもらうのは、リスクも工数もかかりすぎる。
- 結論
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それならば、メインの環境は維持しつつ、Gemini Code AssistとCodex CLIを「共存」するスタイルがベストではないか。
導入とセットアップ

まずは、Codex CLIの導入作業です。CLIツールというと、環境変数や依存関係でつまずくこともありますが、Codex CLIの導入はかなりスムーズでした。
基本的には、公式ドキュメントのQuickstart通りに進めるだけです。
npm install -g @openai/codex
私がインストールしたバージョンは 0.22.0 でした
msfr-system ~$ codex --version
codex-cli 0.22.0
msfr-system ~$
codex
実行すると自動でブラウザが起動し、OpenAIの認証画面が表示されます。ChatGPT Plusなどのサブスクに加入しているアカウントでログインすれば、認証は完了です。
公式ドキュメントに以下の記載があります。ChatGPT Plusプランだと追加コストなしで使用できることがわかります。
Run
https://github.com/openai/codex?tab=readme-ov-file#quickstartcodex
and select Sign in with ChatGPT. You’ll need a Plus, Pro, or Team ChatGPT account, and will get access to our latest models, includinggpt-5
, at no extra cost to your plan. (Enterprise is coming soon.)
特につまずくポイントもなく、数分で使い始められる手軽さは、非常に好印象でした。
Gemini Code Assistとのスマートな共存方法

セットアップが完了したので、早速、開発中のプロジェクトのルートディレクトリでCodex CLIを起動します。
プロジェクトルートで実行するのには、以下の3つの重要な理由があります。
- プロジェクト全体のコンテキストを認識させるため
- 配下にあるソースコードや設定ファイルを読み込み、全体像を把握した上で最適な提案をしてくれます。
- 設定ファイルがプロジェクト単位で適用されるため
.codex/
といった設定ディレクトリがプロジェクトルートに生成され、管理がしやすくなります。
- Git連携機能を活かすため
git diff
の内容を読み取り、変更差分に対するコメントなども可能になります。
ここで一つ課題となるのが、AIへの指示ファイルです。私は普段、GEMINI.md
というファイルにGemini Code Assist向けの指示をまとめています。Codex CLIはAGENTS.md
というファイルを参照するため、同じ内容をコピーすると二重管理になってしまいます。
そこで、AGENTS.md
はCodex CLI固有のルールを記述する「ラッパー」として機能させ、メインの指示はGEMINI.md
を参照させる、という方法を考案しました。
AGENTS.md
ポイントはGEMINI.md
を最初に参照させるところです。
# AGENTS.md — Codex 用ガイド(ラッパー)
> **本文は `GEMINI.md` を参照してください。**
> Codex はプロジェクト全体を読み込めるため、`GEMINI.md` の内容に従って作業してください。
> ここでは **Codex 固有の上書きルール** を最小限で定義します。
## Codex 固有のルール(上書き)
- **作業手順**:必ず **Plan → Diff → 人間承認 → 実行**。50行超 or 2ファイル超は **Plan 必須**。
- **禁止/要レビュー領域**(直接編集しない。提案だけ・`!human_review` 明記):
- `docker-compose.yml`, `Dockerfile`, `.env`, `config.ini`, `.github/**`
- **承認必須**:`app/**`, `app/templates/**`, `migrations/**`, `db/**`
- **自動適用可(軽微・ドキュメント中心)**:`docs/**`, `.agent-docs/**`
- **コミット**:Conventional Commits。1コミット=1意図。PR本文にリスクとロールバック手順を必ず記載。
この方法なら、基本的な指示はGEMINI.md
に集約しつつ、Codex CLIの強力なファイル編集機能に対して、安全に操作するためのガードレール(作業手順のルール化や編集禁止領域の指定)を設けることができ、スマートな共存が可能です。
動作確認
試しに「現在の作業状況を教えてください」と伝えると、ちゃんとAGENTS.md
→ GEMINI.md
の順番に読み出すことが確認できました。

実践:Codex CLIはどれくらい「使える」のか?

準備が整ったので、いよいよCodex CLIの使い勝手を試していきます。
Explain this codebase
でプロジェクト理解度をチェック
まずは、このプロジェクトがどのようなものかを理解しているか確認するため、「Explain this codebase」という提案を実行してみました。

すると、プロジェクトの概要、主要な技術スタック、そして改善点まで的確に指摘してくれました。コードをしっかり読み込んだ上で発言していることが分かり、信頼感が高まります。
具体的な改修作業を依頼:「SECRET_KEY」の安全化
次に、小規模なリファクタリング(Codex CLIが提案してくれた改善)を依頼してみます。現状、FlaskのSECRET_KEY
がソースコードにハードコードされていたため、これを.env
ファイルから読み込むように変更してもらいます。
AGENTS.mdで指示したとおり、Plan → Diff → 承認 → 実行 という安全なプロセスで進めてくれています。
まず、どのような手順で変更を行うかの「計画」を提示してくれます。これを承認すると、次に具体的なコードの「差分」を見せてくれます。

内容に問題がなければ、最終「承認」を経て、実際のファイルが書き換えられます。この対話形式のプロセスのおかげで、AIにファイルを直接編集させることへの不安が払拭され、安心して作業を任せることができました。
コンテキスト使用量のリアルな記録
インストールからの一連の作業で、使用したトークン量は以下の通りでした。
84048 tokens used 86% context left
今回の小規模な改修では全く問題ありませんでしたが、プロジェクト全体にわたるような大規模な改修を一度に依頼する場合、ChatGPT Plusプランのコンテキスト上限では少し心許ないかもしれません。
総括:使って見えたメリットと今後の課題

今回、開発途中のプロジェクトにCodex CLIを導入してみて、そのポテンシャルの高さを少しだけ実感できました。最後に、感じたメリットと今後の課題をまとめます。
良かった点(Pros)
- 提案の質
-
プロジェクト全体の文脈を理解した上での提案は、非常に的確で信頼性が高いです。
- シンプルな操作性
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CLIで完結する対話形式のプロセスは、コマンド入力に慣れているエンジニアは迷うことなく直感的に作業を進められます。
- 安全性
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指示したとおりに実行前に必ず「計画」と「差分」を確認するステップを挟むため、安心してファイルを任せられます。
今後の課題(Cons)
- IDE連携
-
VSCodeなどのエディタ内で直接操作できない点は、Gemini Code Assistのような拡張機能に慣れていると、少し手間に感じます。
VSCodeであれば既存のソースコードを確認できますし、様々なプラグインを利用できてやはり便利です。 - コンテキスト上限
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複雑で大規模な改修を一度に依頼するには、Plusプランの上限では不足する可能性があります。
まとめ:試す価値大。開発の新たな選択肢に

ChatGPT Plusユーザーであれば、追加コストなしですぐに試せるCodex CLIは、間違いなく「試す価値あり」のツールです。
どのような併用・使い分けが効果的かについては、まだ未知数な部分も多いです。これから様々なプロジェクトで試行錯誤を重ねる中で、自分にとっての最適な活用法を見つけていきたいと考えています。
「生成AIを使った開発」の第一歩として、あるいは開発チームの新しい「相談役」として、多くの開発者にとって強力な選択肢となるでしょう。
気になった方は、ぜひご自身のプロジェクトでこの新しい「相棒」候補を試してみてはいかがでしょうか。